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三中信宏「本棚の記憶」

三中信宏「本棚の記憶」

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“食堂店主”と“本の虫”がそれぞれ別人格として交互に書き進めるという本書のスタイルは、たがいに相容れないようにみえて、いったん書き始めてみれば意外なほどスムーズに進捗した。「食」と「本」のスレッドは別々であるはずなのに、絡み合ったりときに交わったりという接点が生まれた。食べることと読むことは、私というひとりの人間にとっては、けっきょく合わせてひとつの“物狂い”であることの証なのだろう。(本書「おわりに」より)

統計学や体系学の観点から生物を研究する進化学者の三中信宏さんは、古今東西の書物や文献をジャンルを問わず読み漁ってきた体験から、自身の知の体系を作り上げる読書術を読者に指南する「本の本」をこれまでにも著してきた"本の虫"。と同時に、自分や集ってくる友人たちのために下宿の厨房で料理を自学自習(試行錯誤)した学生時代の記憶から、日々自身が調理をする厨房を〈みなか食堂〉と命名し、そこでつくった料理のレシピもまた記録・公開してきました。
京都での生まれ育ちから東京での学生時代、つくばでの研究者生活にいたるまでの記憶とそれぞれに紐づく書物の言葉、そして自身を形成した食べものの記憶と長い料理の経験から生まれてきたレシピ。本書は、研究者で料理人の著者がそれらを交互に、人生を辿るように、綴った異色の随筆集。京都人らしさを感じさせる軽妙な文体で、古典から現代のエッセイまで実感に紐づき引用される数々の本の記憶は、博覧強記的でありながら、一人の人間のなかに知肉となって浸透する書物の世界と言葉の豊かさを思わせます。そして著者から読者に直接受け渡されるような、密度の高い、極私的な食べものの記憶と手描きされたレシピ45品は、読み手それぞれにとっての本や食の記憶も喚起することでしょう。

食べることと読むこと。人としての自分、生物としての自分を別々に形づくってきたそれらは、自分の生まれや育ちの“唯一性”の反映であるという意味において、根はひとつなのではないか。自己啓発や「How to」形式からでしか向き合いづらくなりつつある食や読書に、他者の人生とその些細なできごとの積み重ねを通してふたたび出会うこと。灯光舎による「本と人生」シリーズ第2弾。

著者 三中信宏
出版社 灯光舎
その他 B6変形判 / 312ページ / 上製本
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